薬機法チェックをAIで効率化する方法 ― 広告審査3ステップとNG表現の見分け方
化粧品・健康食品の広告で避けるべき薬機法NG表現と、AIチェックツールを活用した効率的な審査フローを解説。NG表現リスト整備からツール選定、運用ルール策定までの3ステップで実務に使える内容です。
「この表現、薬機法的に大丈夫ですか?」――広告制作の現場で、この確認が一日に何十回と繰り返されていないでしょうか。 化粧品や健康食品の広告では、たった一つのNG表現が課徴金(売上の4.5%)や刑事罰につながる可能性があります。しかし、SNS投稿、LP、バナー広告、動画ナレーションと、チェックすべきコンテンツは増え続けるばかりです。
この記事では、薬機法チェックをAIで効率化するための実務的な3ステップを解説します。NG表現リストの整備から、AIツールの選定、運用フローの構築まで、広告担当者や薬事部門がすぐに使える内容です。
薬機法チェックが「人の目だけ」では限界な理由
薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)の広告規制チェックは、従来「経験豊富な担当者が目視で確認する」業務でした。しかし、この方法には4つの限界が見えてきています。
第一に、チェック対象の量が爆発的に増えています。 10年前はチラシとテレビCMだけだった広告チャネルが、今ではSNS投稿、LP、Web広告、動画、インフルエンサー投稿、メルマガと多岐にわたります。広告代理店の中には、月に数百本の広告素材を制作するケースもあり、一つひとつを人手でチェックするには限界があります。
第二に、担当者の経験差による判断のバラつきです。 「肌に潤いを与える」はOKだが「肌荒れが治る」はNG。この線引きは薬機法の知識と経験がなければ判断できません。ベテランと新人で判断が分かれることは珍しくなく、チェック品質が属人化しやすい業務です。
第三に、罰則の重さです。 2021年8月に施行された課徴金制度では、虚偽・誇大広告に対して違反期間の売上額の4.5%が課徴金として徴収されます。さらに刑事罰として2年以下の懲役または200万円以下の罰金が科される可能性もあります。「うっかり見落とし」では済まされないリスクの大きさです。
第四に、AI生成コンテンツという新しいリスクが出現しています。 生成AIで広告文を作成するケースが増えていますが、AIは薬機法の規制を正確に理解しているわけではありません。「効果を訴求力のある表現で」と指示すると、薬機法に抵触する表現を含んだ文章を生成してしまう可能性があります。
これら4つの課題に対して、AIによる自動チェックは有効な解決策になります。では、具体的にどう進めればよいのか、まずは薬機法NG表現の基本から確認しましょう。
薬機法NG表現の基本 ― 化粧品・健康食品で押さえるべきライン
AIチェックを導入する前に、「何がNGで何がOKなのか」の基準を整理しておく必要があります。ここでは化粧品と健康食品、それぞれのNG表現パターンと言い換えの考え方を紹介します。
化粧品の表現ルール
化粧品は、薬機法で認められた56の効能効果の範囲内でしか表現できません。この範囲を超えると「医薬品的な効能効果の暗示」として違反になります。
よくあるNG表現の例:
- 「シミが消える」「シワがなくなる」→ 身体の構造・機能に影響を与える表現
- 「アンチエイジング」→ 老化防止は医薬品的効果
- 「肌荒れが治る」→ 治療を意味する表現
- 「医師も推薦」→ 医薬品と混同させる表現
OK表現への言い換え例:
- 「シミが消える」→「メイクアップ効果によりシミを目立たなくする」
- 「シワがなくなる」→「乾燥による小ジワを目立たなくする(効能評価試験済み)」
- 「アンチエイジング」→「年齢に応じたお手入れ(エイジングケア)」
健康食品の表現ルール
健康食品(サプリメントを含む)は、そもそも効能効果を表示できないという大前提があります。化粧品よりもさらに厳しい制約です。
よくあるNG表現の例:
- 「糖尿病がよくなる」「血圧を下げる」→ 疾病の治療・予防
- 「免疫力が上がる」「代謝を促進する」→ 身体機能の増強
- 「○○成分が脂肪を燃焼」→ 特定の身体作用を示唆
- 「飲むだけで痩せる」→ 身体の変化を断言
OK表現への言い換え例:
- 「免疫力が上がる」→「毎日の健康をサポート」
- 「脂肪を燃焼」→「すっきりとした毎日に」
- 「飲むだけで痩せる」→「美容を意識する方に」
判断に迷うグレーゾーン
実務で最も困るのは「明確にNGとは言い切れないが、リスクがある」グレーゾーン表現です。たとえば「肌の調子が整う」は化粧品の効能範囲内ですが、「肌質が根本から変わる」になると効能範囲を超える可能性が高くなります。
この境界線の判断こそ、**「AIで一次チェック → 人間が最終判断」**というダブルチェック体制が力を発揮する場面です。AIは明確なNG表現を素早く検出し、人間はグレーゾーンの最終判断に集中できます。コンプライアンスチェックへのAI活用も合わせて参考にしてみてください。
AIチェック導入の3ステップ
薬機法チェックへのAI導入は、以下の3ステップで進めるのが効果的です。Step 1でチェックルールを整備し、Step 2でAIツールを業務に組み込み、Step 3でダブルチェック体制と精度改善サイクルを構築します。
Step 1: NG表現リストの整備とチェックルール設計
AIツールを導入する前に、自社の「チェック基準」を明文化します。
まず、既存の審査ノウハウを棚卸しします。 過去に社内で指摘された表現、外部の薬事コンサルタントから修正を受けた表現、行政処分の事例で問題になった表現をリストアップします。これが自社独自の「NG表現データベース」になります。
次に、NG表現とOK表現の対照表を作ります。 単に「この表現はNG」と記録するだけでなく、「代わりにこう書けばOK」という言い換えパターンもセットで整備します。この対照表は、AIツールのカスタマイズにも、社内の教育資料にも使えます。
最後に、判断基準をレベル分けします。 すべての表現を同じ厳しさでチェックすると業務が回りません。「絶対NG(法令違反が明白)」「要確認(グレーゾーン、専門家の判断が必要)」「注意(リスクは低いが記録を残す)」の3段階に分けると、対応の優先順位がつけやすくなります。
Step 2: AIツールの選定と業務フローへの組み込み
NG表現リストが整備できたら、AIチェックツールを選定し、業務フローに組み込みます。
ツール選定の4つの基準:
- 対応法令の範囲: 薬機法だけでなく、景品表示法や健康増進法にも対応しているか
- チェック方式: 単純なキーワードマッチか、文脈を考慮した自然言語処理か
- リライト提案機能: NG表現の検出だけでなく、OK表現への書き換え案を提示できるか
- 価格帯と処理量: 月間のチェック件数に対して費用が見合うか
現在、主要なAIチェックツールには次のような選択肢があります。広告チェックAI(Archaic社)は2025年7月時点で登録企業400社を突破し、約2分で一貫性のあるチェックが可能です。トラスクエタは文脈を踏まえた長文チェックに強く、BOXIL SaaS AWARD Autumn 2025のオンライン校正ツール部門を受賞しています。機械良文はチェックに加えてリライト(言い換え)提案も行えます。
業務フローへの組み込み方:
広告制作のワークフローに「AIチェック工程」を追加します。具体的には、ライターが原稿を書く → AIツールでチェック → 指摘箇所を修正 → 薬事担当者が最終確認 → 公開、という流れです。ポイントは、AIチェックを「ライターのセルフチェック」として組み込むことです。薬事担当者に回す前にAIで明らかなNGを潰しておけば、担当者はグレーゾーンの判断に集中できます。広告代理店のクリエイティブ審査体制の事例も参考になります。

図2: AIチェックを組み込んだ広告審査フロー
Step 3: 運用ルールの策定と精度改善サイクル
導入して終わりではなく、継続的に精度を上げる仕組みを作ります。
ダブルチェック体制の構築:「AIが検出したNG表現」と「AIが見逃したが人間が発見したNG表現」の両方を記録します。AIが見逃した表現は、ツールのカスタム辞書やルールに追加して精度を向上させます。
**月次の振り返り:**月に1回、以下の指標を確認します。
- AIが検出したNG表現の件数と内訳
- 人間が追加で発見した件数(AIの見逃し率)
- チェック所要時間の推移
- 実際の広告修正率
**法改正への追従:**薬機法の運用基準は定期的に更新されます。厚生労働省の通知や業界ガイドラインの改訂をウォッチし、チェックルールに反映する担当者を決めておきます。
AI生成コンテンツ時代の新しい薬機法リスク
生成AIで広告文を作成する企業が増えています。しかし、ここには見落とされがちなリスクがあります。
生成AIは薬機法を「理解」しているわけではありません。 AIに「この化粧品の魅力を訴求して」と指示すると、訴求力を高めようとして薬機法に抵触する表現を使ってしまうことがあります。「肌が若返る」「シミが消える」といった表現は、AIにとっては「魅力的な広告コピー」ですが、薬機法的には完全にNGです。
「薬機法を守って書いて」というプロンプトも万全ではありません。 生成AIは薬機法の全条文やガイドラインを正確に把握しているわけではなく、学習データに含まれる「それっぽい表現」を生成します。結果として、一見OKに見えるがグレーゾーンに該当する表現が混入するリスクがあります。
対策は「生成 → チェック → 修正」の3段階です。 生成AIで広告文を作る場合も、必ずAIチェックツールでの薬機法チェックを通し、さらに人間の専門家が最終確認する体制を組みます。「AIで作ってAIでチェックすれば完了」ではなく、AIと人間の二重チェックが不可欠です。
クリエイターズマッチ社は、数十万本の過去制作データを元にAIが「禁止表現」と「要確認表現」を瞬時に判定するシステムの試験運用を2025年4月に開始しています。さらに2025年12月には生成AIコンテンツの著作権リスク自動判定機能の追加も予告しており、AI生成コンテンツ特有のリスク対応が業界全体で加速しています。

図3: AI生成コンテンツの薬機法チェック体制
よくある質問(FAQ)
薬機法に違反するとどのような罰則がありますか?
虚偽・誇大広告(薬機法第66条違反)の場合、2年以下の懲役または200万円以下の罰金、あるいはその両方が科される可能性があります。さらに2021年8月に施行された課徴金制度により、違反期間における対象商品の売上額の4.5%が課徴金として徴収されます。ただし課徴金が225万円未満(対象品目の売上5,000万円未満)の場合は対象外です。AI導入事例まとめで他業界の事例も確認できます。
AIチェックツールだけで薬機法対応は完結しますか?
AIチェックだけでは不十分です。AIは明確なNG表現(「シミが消える」「病気が治る」等)の検出には強い一方、文脈に依存するグレーゾーン表現の最終判断には人間の専門知識が必要です。AI一次チェック+人間の最終確認というダブルチェック体制が推奨されます。
無料の薬機法チェックツールはありますか?
あります。ただし無料ツールはチェックできる文字数が30文字程度に限られるものが多く、本格的な広告審査業務には不十分です。業務で継続的に使う場合は、文脈を考慮した自然言語処理を搭載した有料のAIチェックツールの導入をおすすめします。AI校正ツールの選び方も参考にしてみてください。
化粧品と健康食品では薬機法の規制に違いがありますか?
はい、大きく異なります。化粧品は薬機法で認められた56の効能効果の範囲内であれば表現が可能です。一方、健康食品はそもそも効能効果を表示できず、疾病の治療・予防や身体機能の増強を示唆する表現はすべてNGです。健康食品の方がより厳しい制約がかかるため、AIチェックルールも分けて設計する必要があります。

図4: 薬機法AIチェック導入の全体像
まとめ
薬機法チェックは、広告量の増大と罰則の厳格化により、人手だけでは対応しきれない時代に入っています。AIチェックツールを効果的に活用するための要点を振り返ります。
- なぜAIが必要か: チェック対象の増大、担当者間の判断バラつき、課徴金リスク(売上の4.5%)、AI生成コンテンツのリスク
- NG表現の基本: 化粧品は56の効能効果の範囲内、健康食品は効能効果の表示自体がNG
- 導入3ステップ: NG表現リストの整備 → AIツールの選定・業務組み込み → 運用ルール策定・精度改善
- 判断レベルの3段階: 「絶対NG」「要確認」「注意」に分けることで、AIと人間の対応を効率的に振り分けられる
- AI生成時代の対策: 「生成 → AIチェック → 人間確認」の3段階が必須
次のアクションとして、まず自社の過去の広告で指摘を受けた表現をリストアップし、「NG表現 → OK言い換え」の対照表を作ることから始めてみてください。この対照表が、AIチェック導入の土台になります。
この記事の著者
Naosy 編集部
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